2050年の成田

空港圏未来予想図by佐藤ひとし

世界と日本の「いま」からみた必然(2)

24時間空港

航空機の低騒音化と空港圏

 内陸空港である成田にとって、航空機騒音は最大の課題です。成田空港は今冬からカーヒュー(運用制限)を1時間延長することになりましたが、「安眠できない」という方々は、まだ納得していないかもしれません。

 

 でも、航空機の騒音は年々、低く、静かになっています。30年前のジャンボ機やコンコルドの騒音は、それはすさまじいものでした。それに比べれば、いまの航空機は最大のエアバス380型機ですら、とても静かです。さらに、近い将来の航空機は、ジェットエンジンではなく、電動モーターで飛ぶようになります。低燃費で環境性能が良い駆動システムが求められているからです。

 

 現在の化石燃料エンジンにかわり、今後は内燃機関と蓄電池を併用したハイブリッド、さらには水素燃料や蓄電池のエネルギーだけで飛ぶ「完全電動化」が主流になろうとしています。自動車と同じです。さらにいえば、実はエネルギー源は無限です。太陽光、風力、地熱、潮汐力。そうした再生可能なエネルギーを電力に変換すればいいだけです。石油や核物質など、CO2や放射性廃棄物をもたらす発電方式は、地球環境を考えれば縮小していかなければなりません。

 

 話がちょっとずれました。航空機の騒音についていえば、「静かになる」「静かにしなければならない」、それが近未来の動きです。航空機メーカーは開発競争に必死です。2020年代には小型・中型のハイブリッド機が実用化されるでしょう。エンジンと蓄電池の性能が向上すれば「完全電動航空機機」の時代になります。航続距離も伸びます。大陸間を結ぶ新型機も、いずれは実現するでしょう。この分野の技術研究開発は、自動車産業と重なっているので、とても急激に伸びています。

 

カーフュー撤廃の重要性

 LCC(格安航空会社)は、小型・中型機を数多く飛ばし、乗り継ぎの便利さを競っています。そうした空港を求めています。そこで問題になるのが運用制限(カーフュー)の問題です。カーフューとは空港の運用時間のこと。門限だと理解してください。

 

 カーフューがある空港は嫌われます。航空会社は定時運行を心掛けていますが、同時に所有する飛行機を休む間もなく飛ばしたいと思っています。飛ばさないと儲からないからです。

 

 深夜に機体を休めて点検するのは問題ではありません。安全のためです。世界中でそうしています。カーフューに引っかかって、他空港に代替着陸すれば大損害ですが、それも本質ではありません。カーフューがあると、思うように路線を張れなくなるのです。代替着陸のリスクを避けなければならないので、十分な時間的余裕がある路線しか、選びようがなくなるのです。

 

 ある航空機だけに注目してください。空港に着陸するたびに、旅客と貨物を入れ替え、必要な点検警備をします。離陸・着陸して次の空港でも、その次の空港でも、そのまた次の空港でも、おなじ手順を踏みます。どこかでトラブルが起きて出発・到着が遅れるのは珍しくありません。そうした一連の空港のなかにカーフューのある空港があれば、どうでしょう? その空港はババ抜きのババみたいに思われます。いやがらせか罰ゲームみたいなものになります。よほど定時運行に支障がなさそうな、時間的に余裕のある路線しか運用できなくなるのです。

 

 世界の空港の大半は24時間運用をしています。でも、そうした空港でも深夜・未明の発着は少ないのです。昼間同様に数分おきに発着している空港など皆無です。空港だって滑走路の点検などメンテナンスの時間は必要だし、旅客や貨物に対応する税関・入管・検疫や各種旅客サービスも24時間フル対応はしません。空港だって「寝る」のです。まして、航空機はどんどん静かになっていくのです。

 

 24時間運用を怖がる必要はありません。むしろカーフィーを維持することで、世界の航空事情から見放されることを恐れます。日本の国土事情から見て、欧米並みの空港需要に応えるのは大変です。そこにカーフューという人為的な制約をつけるのは、困難を倍加するだけです。