2050年の成田

空港圏未来予想図by佐藤ひとし

■2050年 空港圏の未来のすがた

世界や日本の「いま」から導かれる必然

 ぼくが成田にきたのは平成元年ですから、ちょうど30年、一世代分の時が流れました。新勝寺表参道の人波は激変しました。外国人といえば航空機のクルーぐらいだったのが、中国や東南アジア、中近東からの旅行者が大勢歩いています。振袖姿の女性たちは、かなりエキゾチックです。お店の人たちも、いろいろな言語で応対しています。これからの30年、もう一世代後には、どのような景色になっていることでしょう。 

 

第4滑走路
 いまの計画では2032年には成田空港に第3滑走路がオープンします。成田の年間発着回数は50万回になります。羽田と合わせれば111万回。これで首都圏の航空需要に対応するそうです。でも、大丈夫でしょうか? 無理です。いずれ第4滑走路が必要になります。

 

国際競争のリアル
 いまは「大航空時代」です。航空機が人々の交流を担っています。空の旅はすでに「日常」の営みです。だからこそ各国が競って空港を拡張しています。巨額の投資が行われています。空港間競争は激しさをましています。そのカギを握るのは、いまや「空の主役」となっている格安航空会社(LCC)です。


 「世界のハブ空港ランキング2018」によると、成田の評価は42位、羽田も21位に過ぎません。日本はアジア近隣諸国から大きく出遅れています。なぜでしょう? 答えは簡単です。日本の発着枠が少なすぎるのです。


 日本は島国です。平野は貴重です。騒音や住民との関係もあって、成田以降、関西空港や中部空港は海上空港になりました。おまけに東京の表玄関になった成田は、世界経済の中心である欧米への路線や、各国の代表的エアラインに発着枠が占められました。新参のLCCが入り込みにくい空港です。


 LCCは「空飛ぶバス」です。安くて便利なのが一番。そういう時代の要請に応えています。実際、同じ記事の「低コスト・メガハブ空港ランキング」では経済発展著しいアジア諸国の空港が上位7位までを占めています。このランキングでは、乗り継ぎの便利さがものをいいます。小型機や中型機をひっきりなしに飛ばせる空港が求められています。


 30年後の成田にとって、第4滑走路は「必然」です。成田が国際競争力を維持するには、今後の発着枠の増加分の大半をLCCに振り分けるくらいの覚悟が必要かもしれません。

 

■参考記事:アジアのハブ空港、拡張合戦 世界の投資110兆円 半分が注入
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/170801/mcb1708010500002-n1.htm
■参考記事:世界のハブ空港ランキング2018、アジア首位はシンガポールチャンギ空港、日本の最上位は羽田空港の21位 ―OAG
https://www.travelvoice.jp/20181004-118716

 

航空需要の過小評価
 先日、多古町で「成田空港と地域の繁栄を目指す有志の会」による春の勉強会が行われました。基調講演は成田空港共生共栄会議の石田東生(はるお)会長です。石田先生(筑波大名誉教授・特任教授、日大特任教授)は、社会資本政策・交通政策・国土計画の専門家です。


 目からウロコが落ちました。「国の航空需要予測は過小評価がひどい」。石田先生はそう指摘しました。訪日外国人の急増や、LCCによる航空機の小型化・高頻度化を加味していないからです。欧米や最近のアジア諸国での空港の使われ方を考えると、2020年ですら、首都圏の航空需要は発着回数にして200~300万回になっていておかしくないのだそです。


 その論拠がニューヨーク、パリ、ロンドンと東京の空港の比較です。欧米はLCCが普及しているうえ、小型機をたくさん飛ばしています。ほんとに気軽に飛行機に乗るんですね。東京圏(関東7都県)の人が年に1回飛ぶとしたら、欧米3都市では4~6回も飛んでいる計算です。当然、航空需要も旺盛です。欧米3都市は東京の2~4倍になります。つまり欧米なみにLCCが飛び交うなら、東京には年間200万回以上の発着枠が必要になるわけです。


 石田先生は、「成田4本目」「羽田6本目」の検討は必須と主張されました。大賛成です。石田先生のもとで活動している空港圏の若者たちは「4本目はもちろん、すべての滑走を2階建てにして、計8本の滑走路にできないか?」という議論をしているそうです。世界最多、8本の滑走路をもつ米国アトランタ空港に肩をならべ、「成田を世界一の空港にしよう」と考えているのだとか。素晴らしいな、若いって素敵だな。ホントにそう思いました。さすがに生まれたときには、すでに成田空港から飛行機が飛んでいた「空港ネイティブ」世代です。


 個人的に参考にしたいのは、日本と同じ島国の英国ロンドンです。2015年時点の比較ですが、ロンドン圏の人口は東京圏の38%にすぎないのに、航空旅客は東京より34%も多く、発着回数は68%も多いのです。空港も5つあります。かつて世界中に植民地を展開し、「日の没するところを知らず」と豪語した大英帝国の首都です。交通インフラの重要性を知り尽くしています。手をこまねいていては、成田・羽田は世界から敬遠されかねません。「空港」の価値を、より多くの方々と議論していきたいと思います。